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社会貢献

全国大会
「100周年記念討論会 2013

平成25年度(2013)全国大会

次の100年に向けて土木技術者の果たす役割とは

2013年9月5日(木)
日本大学生産工学部津田沼キャンパス37号館101教室
【イベントレポート】
基調講演、支部報告、パネルディスカッションの3部からなるプログラムに260名の土木学会会員が参加し、今後の土木技術者の果たすべき役割について考察しました。支部活動、記念討論会の成果が私たちの未来の姿「土木学会将来ビジョン(仮称)」に結び付くよう、今後開催される100周年記念事業へのさらなる参加が期待されます。

【1】基調報告

  • 【基調報告】「土木学会100周年事業について」
    藤野 陽三
    土木学会100周年事業実行委員会委員長、東京大学特任教授
    開始にあたり、まず土木学会100周年事業実行委員会委員長である藤野陽三氏から創立100周年事業に向けての基本方針が語られました。 土木学会は、前身である「日本工学会」を経て1914年に設立。土木技術者の倫理規定を制定するなどさまざまな活動をもって、現在35000人の会員からなる一大組織へと成長しました。2007年からは、来る100周年に向けてさらなる飛躍を目指して、「豊かなくらしの礎を これまでも、これからも」とのキャッチフレーズの元、社会貢献、国際貢献、市民交流、社会安全を4本柱に活動を展開しています。藤野氏は、これら100周年記念事業について「全国に分布する8つの支部と本部との連携が学会全体の体質改善にもつながる」と説き、支部と本部が一体となって学会活動の発展的成長を目指したいと会場へ向けて呼びかけました。

【2】支部報告

  • 【支部報告】「支部の100周年に向けた取り組みと土木技術者の役割」
    関東支部:福田 敦
    関東支部支部長、日本大学理工学部交通システム工学科教授
    藤野氏の基調報告を受け、その後3つの支部が活動報告を行ないました。 土木学会の約半数の会員数を誇る関東支部は、対象エリアが関東地域及び、山梨県、新潟県の計9県と非常に広範囲に及ぶことから、常時複数のワーキンググループや地域ごとに設置された分会活動を中心に活動しています。100周年記念事業の一つ、「安全な国土への再設計」においても、2つのワーキンググループに分かれて東日本大震災における被災地と首都圏、両方の観点から被害・普及を検討していると活動を紹介しました。
    また関東支部では、行政、公共企業体、ゼネコン、コンサルタントなどに所属する若手土木技術者の交流サロンを過去2回開催しており、平成25年3月14日に開催された第2回交流サロンでは70名もの若者が参加しています。福田敦氏はここで得た参加者の意見を元に、「土木技術者に求められる役割は今後も、安全な国土づくり、長期的視点でのインフラ整備の推進である」と変わらない姿勢を示す一方で、「そのためには将来への具体的なビジョンや体制づくりなどの課題も掲げられる」とし、「課題解決に向けた支部としての役割について今後も検討していきたい」とさらなる支部活動の活性化に意欲を見せました。
  • 中部支部:水野 貢
    中部支部副幹事長、愛知県建設部道路建設課主幹
    続く中部支部では、100周年へ向け既存の活動をベースに積極的に取り組む一方、新たな試みにもチャレンジしています。その一つが若手土木技術者の交流サロン。今年は初となるイブニングサロンを開催し、学生と社会人の垣根を越えたフランクなディスカッションが大きな反響を得ました。今後も継続的な開催を予定しており、その他オープン講座や土木カフェにおいても同様のスタイルでの開催を視野に入れています。 また平成23年には、土木分野における若手技術者の人材育成に関する検討委員会を新たに開設し、昨年は若手技術者や学生を対象としたアンケート調査や意見交換会を実施。それらを元に土木学会の役割についての提言を取りまとめました。この提言を踏まえて水野貢氏は「近年、若手土木技術者を取り巻く環境が厳しくなり将来への不安を感じる若者も少なくない。次世代が土木技術者としての自信と誇りを持って働けるようたゆまぬ努力を続けていかなければいけない」と土木技術者に求められる次代への役割を言及しました。
  • 中国支部:蒲原 幹夫
    中国支部幹事長、広島県土木局土木整備部道路企画課参事
    中国支部では、100周年に向けた活動の中心として昨年から支部活性化WGを設置し「大人の社会見学土木遺産ツアー」や「防災マップ作成演習」など地域住民を対象とした催しを開催しています。また、地域の小中学生を対象とした「身近な土木を描いてみよう!図画コンクール」では、平成20年の開始以降毎年900枚近くの応募が寄せられおり、今年から対象を高校生へ拡大するなど、さらに地域住民との強固な結びつきが期待されます。
    蒲原幹夫氏は「これを機に土木の大切さを知り、将来の土木技術者育成を図りたい」と次世代への期待を語るとともに、内村鑑三の『後世への最大遺物』の一説「ひとつの土木事業を遺すことは実に我々にとっても快楽であるし、また永遠の喜びと富とを後世に遺すことではないかと思います」を引用し、「まさにこれが我々土木技術者の役割であり使命。永遠の喜びと富を後世に残すために日々研鑽し、社会インフラの整備を通じた豊かな社会の実現に向け引き続き努力していかなければいけない」と締めくくりました。

【3】パネルディスカッション

テーマ:「次の100年に向けて土木技術者の果たすべき役割とは」

  • コーディネーター:
    屋井 鉄雄
    土木学会100周年 事業実行委員会 社会貢献事業部会長、
    土木学会将来 ビジョン策定特別 委員会副委員長、東京工業大学教授
  • パネリスト:
    松本 髙広
    有限会社松本社寺建設 代表取締役、日本伝統建築技術保存会副会長、
    文化財建造物保存技術保存連盟理事、中央工学校木造建築科講師
  • パネリスト:
    大木 聖子
    慶應義塾大学環境情報学部准教授
  • パネリスト:
    柄谷 友香
    名城大学准教授
  • パネリスト:
    藤井 聡
    土木学会100周年事業実行委員会 広報部会長、京都大学教授、
    内閣官房参与
  • パネリスト:
    橋本 鋼太郎
    土木学会第101代会長

パネルディスカッションには、土木分野に限らずさまざまな分野の専門家がパネラーとして参加しました。そこでディスカッションを始めるにあたり、まずパネラー自身の専門分野における技術者の役割とは?というテーマに基づきそれぞれ思いを語りました。最初にお話しくださったのは、土木以外の分野で活躍する松本髙広氏と大木聖子氏です。

宮大工棟梁である松本氏は、日本最古の伝統建築物、法隆寺金堂に用いられた「ほどく技術」について紹介。
木材をほどく技術によって組み立て、300年周期で解体修理することにより1300年以前もの建物が現存していると話しました。そして修理のたびに財源確保など数々の努力がなされた背景についてふれ、「技術は自然と受け継がれるものではなく、継承のための努力がなされてこそ続くものである」と、建築物の保存と技術伝承に対する技術者たちの努力を語りました。 続いて阪神・淡路大震災を機に地震学者へと歩み出したという大木氏は、「地震学は経験科学であり過去データも乏しいことから、過去に事例のない地震に関しては予測不可能。地震科学には限界がある」と述べた上で、その限界の元に作成された「ハザードマップ」により2011年3月に起こった東日本大震災では危険地域外の多くの方々が命を落としたことを述懐しました。 国土交通省から毎年発表されるハザードマップは、地震学から考えうる自然災害を最大限に予測し被害範囲を地図化したものですが、先述の通り予測に限界があります。大木氏は「なによりこの限界を伝えなかったことを我々は重く受け止めなければいけない」とし、専門家は科学技術の限界というネガティブな側面も含めて社会へ情報発信することが必要であり、情報発信への覚悟が求められていると語りました。

続いて、土木分野に携わる立場から柄谷友香氏、藤井聡氏、橋本鋼太郎氏の3名が土木技術者の役割について考えを発表しました。
柄谷氏は東日本大震災の直後から陸前高田市に移住し、現在も仮設住宅で生活しながら災害後被災者が復興に至るまでの記録をとり続けています。これは文化人類学におけるエスノグラフィーと呼ばれる手法で、「新たな問題を見つけることが今後の防災計画の発展に繋がる。そのためには数字やデータだけではなく自らの五感によって感じることが重要」と柄谷氏。これまで約2年間の現場で得た経験を元に、復興に向けて住民、自治体、地域リーダーが共通の言語によってコミュニケーションを図り、同じ目標を目指すことの重要性を説き、その上で土木技術者のプロとしての力が求められていると語りました。
また一方で藤井氏は東日本大震災について、これまで現代人は文明化のもと自らが大自然の一部であることを忘れていたと指摘、大震災によって「人間社会を超越した大自然の存在を再認識した」と語りました。そして橋や堤防、ダムなどを造り地球環境と常に対峙している土木技術者こそ、「危機」とも言える自然の偉大な力を伝えるできる存在であり、これこそが今後永久に土木技術者が果たすべき役割であると力説しました。
最後に橋本氏は、これからの土木技術者に求められるのは地球環境を保全しつつ状況にしなやかに対応できる力であると提言。そのためには、多様で高度な技術とともに、土木技術者としての倫理観を育み、社会貢献へと向かう姿勢が必要だと述べ、土木学会を自己研鑽の場になるよう尽力したいと土木学会会長としての思いを語りました。

これらの発表を踏まえて松本氏が同じ技術を継承する立場から、土木関係者に向け「手によるものづくりは人間形成を育むが、近年の機械化やマニュアル化に伴い努力や工夫するという姿勢が失われつつある」と後継者育成においる精神性の伝達の重要性を問いかけると、橋本氏は効率化が最優先され無駄を嫌う昨今の社会においてはリスクマネージメントや危機管理への思想が削られつつある。効率化に縛られず新たな価値の創造を正当に評価する社会作りこそが、ひいては松本氏が指摘する人間形成に繋がると答えました。
また、大木氏が東日本大震災の経験を経て科学者は地震学の限界を伝え、また行政、メディアも同様に曖昧な部分も含めてリスクを提言する必要性を語ると、柄谷氏も「限界6を分かりやすく伝えることはプロにしかできないこと」と賛同し6、不可能をきちんと伝える誠実さの上にこそ地域住民との信頼関係が築けると語りました。
さらに藤井氏は松本氏、大木氏両名の発言から、土木技術者という職業が持つ特異性について分析。「世間一般では、技術化するとどうしても人としての温もりを損なう傾向にあるが、土木技術者に限っては自然と対峙する仕事柄、常に自然と技術という相反する2つの要素を併せ持っている」と藤井氏。そして、この絶対矛盾を乗り越えるためには「精神の力量」とも言える強い志が必要不可欠であり、それを乗り越えてこそ真の土木技術者であると語気を強めました。

  • 総合司会:
    日比野 直彦
    日土木学会100周年事業実行委員会副幹事長、土木学会将来ビジョン策定特別委員会副幹事長、企画委員会みらい構想小委員会委員長、政策研究大学院大学准教授
統括プロジェクトメンバー:
リーダー日比野 直彦サブリーダー高野 昇
担当長井 宣子担当寺部 慎太郎
担当飯田 善一郎担当田中 伸治