■ 制作に至る経緯
創立100周年記念式典の会場で開催した特別展示については、当初から皇太子殿下にご覧いただくことを想定して、2013年10月から準備が進められた。
全体テーマを「土木と文明」とすることは即座に決まった。学会創立100周年という歴史の節目にあたり、土木に携わる一人ひとりが、個々の職務の遂行だけでなく、国土の秩序形成や豊かな社会の構築、つまり文明の担い手としての使命を改めて確認すべきという思いがあったからである。ただ問題は、これまでこのテーマを正面から扱った展示がなく、さらには土木の歴史にお詳しい皇太子殿下でもご覧になったことがない図面や模型を探し出さなければならない、ということであった。そのため、展示の具体的なアイデアや素材を探すため、休日や仕事の合間を利用して各地の博物館を見て回ることとした。最終的に、その数は20都道府県60館に及んだ。
具体的に作業を進めるうちに、模型にはめぼしいものが少なく、なおかつ展示候補であっても規模が大きいか遠方にあるため運搬費用が嵩むことがわかってきた。展示の期間は、記念式典が開催される半日のみと極めて短い。そのため、現物展示は図面に限ることとし、その代わりに、会場での映写と式典後の再使用を念頭において、100周年記念のキャッチフレーズ「豊かなくらしの礎をこれまでも、これからも」をテーマとした一般向けの映像を作ることとした。
なお、特別展示に係るタスクフォースの構成員は、文化庁の北河大次郎氏、日本大学の阿部貴弘氏、東京大学の福島秀哉氏、大成建設の高橋薫氏、東京大学の鈴木高氏の5名で、その他写真家の西山芳一氏、NHKの福田和代氏・羽村玄氏という強力な助っ人の力を借りて作業は進められた。
全体テーマを「土木と文明」とすることは即座に決まった。学会創立100周年という歴史の節目にあたり、土木に携わる一人ひとりが、個々の職務の遂行だけでなく、国土の秩序形成や豊かな社会の構築、つまり文明の担い手としての使命を改めて確認すべきという思いがあったからである。ただ問題は、これまでこのテーマを正面から扱った展示がなく、さらには土木の歴史にお詳しい皇太子殿下でもご覧になったことがない図面や模型を探し出さなければならない、ということであった。そのため、展示の具体的なアイデアや素材を探すため、休日や仕事の合間を利用して各地の博物館を見て回ることとした。最終的に、その数は20都道府県60館に及んだ。
具体的に作業を進めるうちに、模型にはめぼしいものが少なく、なおかつ展示候補であっても規模が大きいか遠方にあるため運搬費用が嵩むことがわかってきた。展示の期間は、記念式典が開催される半日のみと極めて短い。そのため、現物展示は図面に限ることとし、その代わりに、会場での映写と式典後の再使用を念頭において、100周年記念のキャッチフレーズ「豊かなくらしの礎をこれまでも、これからも」をテーマとした一般向けの映像を作ることとした。
なお、特別展示に係るタスクフォースの構成員は、文化庁の北河大次郎氏、日本大学の阿部貴弘氏、東京大学の福島秀哉氏、大成建設の高橋薫氏、東京大学の鈴木高氏の5名で、その他写真家の西山芳一氏、NHKの福田和代氏・羽村玄氏という強力な助っ人の力を借りて作業は進められた。
■図面の展示
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展示(図面とパネル)と映像の概要について述べる。まず図面については、橋の技術と計画・設計のプロセスを示すことを意図して、アーチ橋と可動橋の図面を展示した。アーチ橋については、江戸末期から昭和前期にかけてのアーチ技術の変遷を示すために、半円アーチの通潤橋(熊本県)、欠円アーチの日本橋(東京都)、変垂曲線アーチの萬代橋(新潟県)という、各時代を代表する大規模アーチ橋を取り上げた。また可動橋については、勝鬨橋(東京都)の比較検討図面と長浜大橋(愛媛県)の図面および計算書を取り上げ、その計画・設計過程の一端を説明した。なお、これらの橋梁はすべて重要文化財であり、すでに「土木コレクションHANDS+EYES」に採録されている萬代橋、勝鬨橋、長浜大橋の図面に加えて、通潤橋の工法を詳細に記した「通潤橋仕法書」(写真1)、断面図や図式解法による応力計算図を含む日本橋の図面(写真2)、増田淳事務所による英文の長浜大橋計算書を展示した。
また、これら橋梁の図面類のほかに、庄内藩による江戸期の海岸植林の状況を示す約10mの長大な絵図も展示した(写真3)。これは、自然の脅威に対して長年対策が講じられてきた国土の姿を如実に示す貴重な資料である。 -
写真1 通潤橋仕法書
写真2 応力計算図を含む日本橋の図面
写真3 庄内海岸の防砂林の絵図(江戸後期)
■パネルの展示
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パネル展示のねらいは、土木と文明の関わりの大きな流れを示すことにあった。ただ、それが単に教養を育むだけで終わってしまうのでなく、各人が未来の文明を考えるきっかけにしてもらいたいという思いから、土木を取り巻く現状に対する問題意識ー技術が発展し豊かな生活が実現する一方で、従来の文明構築の手法が現在の社会構造や、人びとの意識の変化に対応しきれていない、という問題意識ーをタスクフォースのメンバーで共有し、国土経営、自然と開発、モノと人、総合性・複合性、多様性などのキーワードを念頭に、七つの小テーマを設定した。
内容をかいつまんで説明すると、まず「1.築かれた大地」では、国土地理院の協力を得て、人口が集中する我が国の平野部において、低湿地や海面の干拓・埋立、台地の切土・盛土等の土木工事が大規模に行われてきた状況を示した(図1)。また「2.国土経営の手法」では、為政者たちのインフラ整備の考え方を示す図版の他、道路、河川、農地などが複合的に整備された状況を、「3.自然の脅威への対応」では、モノだけなく人の対応力も考慮に入れた近世のリスクマネジメントの手法、近代以降の科学的アプローチを踏まえた、現代の防災の多様な展開等を紹介した(図2)。「4.都市の再生」では、民間活力を導入して数々の危機を乗り越えた京都や、近年地域固有の資産を生かして再生しつつある地方都市を、さらに、「5.技術者の育成と学会の役割」では、一種の情報交換の場から、国家的、社会的課題の解決に寄与する組織へと変貌した工学会・土木学会の歴史を取りあげた。最後に、「6.都市デザインの多様性」と「7.橋梁デザインの多様性」では、自然地形を巧みに生かした都市デザイン(図3)と、日本の橋づくりの多様性を紹介して、日本の都市または技術者のDNAを探る糸口とした。
これらのパネルの説明パンフレット(図4)は、記念式典来場者全員に配付された。
■映像
- 映像については、当初、土木学会の映像コンクールで受賞した作品の中から印象的なシーンを寄せ集めて、映画の予告編のようなものをつくろうと考えていたが、映像のプロたちの助言に耳を傾けるうちに、起承転結のある一つのストーリーにすることにした。最終的には、土木を詩に例えた司馬遼太郎氏の冒頭のメッセージが、通奏低音のように全体を貫くものにまとめることができたと思う(写真4)。
なお今回は、予算的・時間的制約が厳しい中での作業となったが、映像という媒体は土木や学会の取組みを伝えるのに有効な手段であるので(例えばICEホームページの”Shaping the World”を参照のこと)、今後機会があれば、学会活動としてじっくり取り組んでもらっても良いのではないかと思う。
写真4 映像のプロローグ
- 一年間という短い期間ではあったが、省庁、博物館、企業、研究者などからの幅広い協力を得て、なんとか完成にこぎ着けることができた。この場を借りて、関係者には御礼申し上げたい。幸い式典当日には、多くの方々にパネルを見てもらうことができ(写真5)、映像についてもホールの大画面での上映が実現した。さらに、皇太子殿下からは展示品についていくつかご質問をいただくなど、ご関心を寄せていただいたことは幸甚の至りである。なお、これら展示パネルと映像は、今後、学会の他のイベントでも使用できるよう、少し手を加えた上で保管する予定である。
写真5 当日の展示会場の様子